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「2つの住宅」について

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住宅には、2つの種類がある。

帰宅すると我が家が、周囲の町並みにしっくりとなじみながらも、愛着を感じさせるような独自の存在感をもち、やさしく迎え入れてくれるようなものだったらいいとは思いませんか?しかも、そのような家をより経済的につくることができるとしたら・・・
そのような住宅をつくるためには、この「2つの住宅」という観点をはっきりと持つ必要があるのではないか。私は日々の設計業務をおこなっているなかで、最近この考えを強く持つようになりました。


住宅地等を歩いていると、センスのいい、素敵な住宅も見かけられるようになってきたと思います。ただ、それ自体としては、確かによくできている住宅なのに、それがその場所においてしっくりとおさまっておらず、やや窮屈に感じられてしまう場合も多い気がします。

やや極端な例えかもしれませんが、寿司が皿の上にすっきりと乗っているのではなく、折詰箱のなかにギシッと並べられているような窮屈さを、ひとつひとつの住宅に対して感じてしまう・・・その原因はどこにあるのでしょうか。これは、敷地が狭いから、というような単純な理由ではないのではないか、と私は思います。

私の考える2つの住宅とは、郊外に建つ住宅(以下、郊外型と呼びます)と、都市に建つ住宅(都市型と呼びます)です。あらためて見たときに、現在の日本では特に都市型の住宅において、この2つのタイプの違いを明確に意識してつくられたものは、あまり無いのではないでしょうか。

住宅地等に住宅を建てる場合において、本来は都市型の住宅としてつくられるところに、郊外型の住宅がやや近接しあって建てられているということ。
これが、冒頭で述べたような印象をも与えるところの、日本の住宅の問題点なのではないか、と私には思えるのです。

私の考える都市型とは、必ずしもモダンであるとか、シャープであるとかの意味ではありません。私がつくりたい住宅は、むしろ素朴で力強く、落ち着きや安らぎを得られるようなものです。都心の街並みのなかに計画する場合でも、このような住宅は、充分に有効であると私は考えています。

2つのタイプの住宅の特徴をそれぞれまとめると、次のようになるかと思います。

郊外型の住宅

こちらのタイプの住宅は、別荘地に建つ住宅のように、かなり広い敷地にポンと建ったようなかたちのもので、日本の住宅としては、少数派でしょう。こちらの住宅は、現時点でもほとんどの場合、あるべき理想に近いかたちで建てられていると思います。

郊外型の住宅の特徴は以下の通りです。
①地価の比較的に安いその土地は、広い場合が多い。
②土地にかかる費用負担の少ない分、住宅にあてられる資金にはゆとりがあることが多い。
③土地は周囲にひらけており、ほぼすべての方向から建物を同じように見られる。
④したがって、そこに建つ住宅は、彫刻、あるいは人の体のように、すべての方向から同様に意識されるような存在であり、方向による意識の差異はほとんど無い。
⑤日本の四季の気候の変化などを、それほど損なうことなくそのまま享受できるため、建物の外部と内部とは、開放的につながりあっている。
⑥交通や文化上などの利便性は、あまり高く無い場合が多い。

都市型の住宅

こちらは日本の住宅の場合、圧倒的多数だと思います。その特徴をわかりやすく示す建物として、現代のものではありませんが、京都等の町屋があります。それほど広くは無い敷地に、道路に面して並ぶように建てられたかたちのものです。通勤圏の住宅地に建つ住宅もこちらのタイプに加えるべきだと思います。

都市型の住宅の特徴は以下の通りです。
①地価の高いその土地は、やや狭いことが多い。
②土地購入で費用がかかることが多いため、住宅分の資金の方は、それに圧迫されてある程度コストダウンをおこなう必要がある場合が多い。
③土地の間口が狭いことが多く、建物の側面や背面はほとんど見えない。
④したがって、そこに建つ住宅は絵画、あるいは人の顔のように、あくまで正面の方向から集中的に意識されるような存在であり、側面・背面との、意識のされ方の差異が非常に大きい。
⑤スペース的な制約から、採光・通風がそれほど充分でなかったり、ヒートアイランド現象の影響もあり、外気をそのまま自然に取り込めるとは限らず、この点での工夫が必要になる。
⑥交通や文化上などの利便性が、高い場合が多い。

これより先は、御依頼を受ける割合が大きく、また改善すべき面ありと考えられる都市型の住宅について述べます。
(この両者の中間に位置するような住宅もありますが、それはそれぞれのケースごとの応用かと思います。)

京都等の町屋や、ヨーロッパにおける旧市街地の住居等では、隣同志がつながりあっており、外壁面にあたるものは、街路に面した正面部分だけになります。このため、その正面は、( ヨーロッパではファサードとも呼ばれ、)古来より、左右対称や全体のバランスなどにも趣向をこらして、集中的にデザインされてきました。この観点は都市型の住宅でも、非常に重要です。

奈良県の今井町の町並み

飛騨高山の町屋

コッツウォルズの家並み

西欧旧市街地の住宅

住宅地に建つ日本の住宅は、それぞれ単体の住宅がお互いに離れて建っているのだから、隣家と一体になるかたちで連続している京都の町屋や、西欧旧市街地の住宅等とは違う、と思うかもしれません。たしかに、都市型の住宅では、隣の建物との間に、広くはありませんが、ある程度の空間はあいています。この点、側面や背面からも空気や光を工夫してうまく取り込むことが可能になり、京都の町屋等(やヨーロッパの旧市街の都市住居)よりも有利な条件をプラスアルファとして与えられている、と考えることができるのです。

日本における都市型の住宅を、京町屋や西欧の市街地住居等と重ね合わせてとらえ直してみたときに、今まで意識していなかったポイントや可能性が、見えてくるのではないでしょうか。

都市型住居の設計における具体的な留意点を述べると、次のようになるかと思います。

1.

街路に面する正面(顔)の部分に、より計画上の意識が集中され、側面や背面部分とは、デザイン上でも、コストも面でも、よりメリハリがつけられるようにすること。毎日帰宅するときに、愛着の込められた正面部分と対面し、その流れのままに、家屋のなかへと入っていく・・・。側面や背面の外壁面や、そこにある要素にかけるべきコストを室内の調度や空間性の方に出来るだけまわすこと。
極端に言えば、外観のそれぞれの面と面の造形的な関係は、それほど重要ではないのではないかとさえ思います。街路に面した、正面部分こそが、その家自体と、その家への思いを持つ建て主の存在を表してそこにあり、それ以外の側面や背面は、必要な耐久性を兼ね備えた外皮であり、なおかつ内部空間にとって必要なものを外部から様々に取り入れる機能的なものとしてある、という風にとらえた方がいいかと思います。

2.

都市型の住宅では、建物の内部と外部とが、全体的に連続していくような開放性を求めることは、通常は難しいかと思います。内部空間を中心にとらえ、そこへ外部から、その敷地の特性や周囲との関係を考慮し、ポイントを絞ってどのように光や風を取り入れるか、という発想が必要になります。内部空間同志のつながり方、組み立て方を充分に検討し、これに対しての総仕上げのようにかかわってくる重要なファクターとして、光や風の取り入れをどのようにしたらよいのか、という風に考える必要があるかと思います。

3.

都市型の住宅での生活においても、出来ることなら、外気につつまれた庭にあたる空間がほしいもので、それをどのようにしつらえるか、ということがあります。都市型の住宅では、2方向、3方向が、ほぼ囲われたかたちとなっており、郊外型の場合のように建物の周囲がすべて庭、というわけにはいかないので、どこかにそれを集約してとるように考える必要があります。
①前面道路側の正面地上部分にそれをつくるのか。
②その面の2階にバルコニーを広くとるのか。
③側面・背面に、建物の一部をくぼませてそのスペースをつくるのか。
④空にのみ開かれた中庭を設けるのか。
等の選択肢は、お住まいになる方の御希望・イメージに加え、敷地状況や方位等の条件も考慮しなければなりません。
そのいずれの場合にも、建物全体がコンパクトに集約されたかたちとなることの多い都市型の住宅では、建物の核となる団らんの空間である、リビングルームとその外部の庭空間とがつながりあって、いわば、内から外へとどのようにひろがり、展開していくか、を考えていくケースが多いかと思います。閉じるべきは閉じ、開くべきは開く、ということを、工夫をこらして計画する必要があろうかと思います。


主要な観点としては、例えば上記のようなことがあろうかと思いますが、個々の設計案件の内容に即して、「都市型の住宅」という側面を色々な面からよく検討しつつ、計画を組み立てていく必要があろうかと思います。

町屋そのものではないが、町屋的な要素をバランスよく盛り込んで計画された都市型の住宅は、きっとその場所に、よりしっくりとしたかたちでおさまるのではないかと思います。住宅(とりわけ都市型の住宅)を私が設計してく際に、私はこのような観点を明確に意識して進めていきたいと考えています。


追記

「2つの住宅」における都市型住宅として目指すべきことを考える時、商店街の空間と住宅地の空間を、そこに建つ建物の作られ方の違いということから比較してみるのも、有効ではないかと思います。

ある程度にぎわっている商店街では、各店舗(兼用住宅)の建物が、道路側の「顔」にあたる部分に、工夫をこらしたしつらえをほどこしています。そしてそれらがつらなった、おもて通りの空間は、買物等をせずにただその雰囲気を味わうために訪れる人々がいるくらいに、楽しみや心地よさのある場がつくられていることも多いと思います。これらの建物では、その背後に位置する側面、背面については、(建築資金的な理由が多いと思いますが)建物を機能的な面で支える「くろこ」のような部分として計画され、外側からの見え方については、あまり考慮されない場合がほとんどかと思います。

これに対し、住宅地において、通りから見たそれぞれの家々は、「住宅地というものは、もともとそういうものだ」という考え方から少し離れた眼でながめてみると、通りに向けて自分を表現しようとするというよりは、自己完結的に、(そこを歩き回る我々自身の「体」が、四方から意識されることを前提としているのと同様な感じで、)まんべんなく外装やしつらえをほどこしているものが多いと思います。住宅地の通りにいる時には、ある種の「静けさ」、よりわかりやすくあえて言えば、「やや眠ったような感じ」を感じてしまうことが多いように思います。

上記2種類の空間の構成要素である、それぞれの建物の作られ方の違い、それが「顔」をもった家か、「体」からなる家かの違いが、この2つの空間の性格の違いを決めている部分も大きいように思われます。

しっかりと「顔」をもったものとして、御自分の家をつくることは、その家自体が御自身にとって、愛着のもてる好ましいものになることと同時に、御自分の家の建つ通りの空間をも、活き活きとしたものにしていくように思えます。

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